経営戦略を実現するための人事戦略とは
企業の成長と成功の鍵は、優れた経営戦略にあります。しかし、その戦略を実現するためには、人事戦略との緊密な連携を欠かすことはできません。
経営戦略と連動した人事戦略を策定するためには、自社が置かれている経営環境や社内の状況などを押さえておく必要があります。
本コラムでは、変化が急激な時代において、人事部門が経営層から期待される役割と、経営戦略を達成するために人事戦略を策定するメリットや、押さえておくべきポイントをご紹介します。
不確実なことに満ちている世界で、企業のリーダー、市民、政治家、医療従事者など皆が動揺しながらも、なんとか踏ん張ろうと努力しています。
BCon®では多様な人たちと共に、それぞれの専門性や強みを活かし、力を合わせることで、人類が対処すべき難局を乗り越えていきたいと願っています。
そこで、特に私たちと関わりのある研究者や専門家からその知恵を、そしてエールを送って頂きました。
日本および世界の人々を勇気づける、または活動を方向付ける助けになるメッセージを発信していきます。
この大変な状況の中、あなたやご家族、ご友人が健康で安全に過ごしていらっしゃることを願っています。COVID-19の危機やパンデミックがリーダーシップや変革に及ぼす影響について、皆さまにお伝えする機会を頂き、感謝いたします。
COVID-19の危機の間に世界中で起こった出来事と、その中でリーダーや政府、組織が果たした役割を振り返ってみると、アジリティ(機敏)であることが組織の優位性につながることがより明確になると信じています。アジャイルな(機敏な)組織は、パフォーマンスにおいて有利な結果が得られる時と場所で、タイムリーで、効果的に、持続的に変化できる力を持っています。そして、COVID-19後の経済がどうなるかを考えると、アジリティ(機敏性)とは何であるかという問いがたくさん出てくるかもしれません。ただ、今すぐにでもアジャイルになる取り組みを始める必要性があることに、ほとんどの方は異論がないでしょう。
これまでとこれからを考えてみると、大切なリーダーシップの教訓は2つあり、どちらもアジリティの重要な部分を示していると思います。1つめの教訓は、緊急事態に対する覚悟と準備がスピードよりも重要であることです。2つめの教訓は、中央集権化と権限委譲の両方ともに効果的であり、なおかつそれはマネジメントする必要があることです。
パンデミックの前には、アメリカや世界の国々の多くが効率を上げて利益を最大化することに全力を尽くしていました。このような方針で動いていた組織では、所得の不平等に加担しているという問題点はあるものの、財政的にはうまくいっていました。ここで重要なポイントは、効率重視のアプローチがシステムに染みついているため、どこか一箇所が破綻すれば全体が崩れてしまう可能性があるということです。効率を優先すると、短期的な業績につながらないものは視界の外に置かれ、ぼんやりとしか認知されません。これは知恵にもとづいた経営とは言えません。自分たちの将来を犠牲にすることで成り立っていたものであり、とりわけ地球温暖化が加速する現在では、間違ったアプローチです。
新型コロナウイルスは、システム全体を破壊するものとなり、私たちの大部分が準備不足のまま危機にさらされました。私たちが研究してきた「アジャイル組織」※から学べることは、準備をしておけば迅速に行動することができるということです。パンデミックがそこまで来た時、ほぼ全ての人が迅速に対応しました。しかし、違いがあるとすれば、その対応策が効率的で、効果的で敬意のこもったものであったか、それともそのようなものでなかったか、です。
※ アジャイル組織:長年にわたる組織開発の実績と近年の研究結果から、持続可能性が高い組織は「計画的に組織変革を実施しているのみならず、変化に素早く対応する柔軟性を持っている組織である」ということが分かってきました。そのような特徴を備えた組織を「機敏性が高い組織:Agile Organization」といいます。
準備をしてのぞめば、目的と正確性をもって効率よく迅速に行動することができ、人に敬意を払いながらリードすることができます。準備ができていないと、ただただ速く行動することを強いられますが、これは効率が悪く、後手後手で、はっきりいって道徳的でもありません。危機管理どころか、資源の浪費、人命軽視につながります。最前線で戦っている医療従事者の現状を見ていても分かるように、速く行動することを強いられるような事態は、リーダーシップの欠如をあらわしており、その負担を私たちが負うことになるのです。緊急事態に対する準備には時間がかかり、効率がいいとは言えませんが、逆境の中で人類を守ることができるという利点があります。
2つめの教訓として挙げた、「中央集権化と権限移譲はどちらも効果的だが、それは、マネジメントをする必要がある」というのは、スピードの問題に対処することです。
パンデミックが広がるにつれて、自社や経済に影響が出てくることをリーダーは理解するようになりました。ウイルスの打撃を受けた組織や政府は中央集権化、あるいは権限移譲を進めました。これらのアプローチはどちらも、正しく理解し、設計されていれば迅速に機能します。
中央集権化された組織の意思決定は、はっきりした方向性を人々に知らせることができます。競合するような発言はなく、雑音もなく、ただ明快な行動を促す呼びかけがあるだけです。中央集権型のリーダーシップは、昔からあるパワフルなものであり、潜在的には効果的なリーダーシップ手法です。とりわけ危機的状況においては、意思決定がトップに任されることで、組織や政府が迅速に行動できます。調整の要る作業も統制できますし、人々の行動を制限することもできます。ただし、このアプローチはフォロワーの成熟度にも依存します。指令が実行されるスピードは、フォロワーの意欲とリーダーシップへの信頼の度合いで変わります。
しかしながら、権限移譲も効果があります。パンデミックが家庭にも影響を与え始めると、中央集権的な統制がなくても、分野の壁を越えてマスクの製造がはじまりました。ニーズは明確で、資源は利用できる状態でした。人々が「私たちは誰なのか」に基づいて行動できることを知っていれば、驚くほど的確で迅速なアクションが可能になります。生産と調整のガイドラインが明確であれば、権限移譲のアプローチもうまく機能します。
対照的に、線引きのされていない権限移譲はカオスです。米国では、連邦政府が各州にパンデミック対策を指示した時、それは米国人のアイデンティティと完全に一致するような権限移譲の非常に明確なメッセージでした。しかし、権限の線引きはされないままだったため、各州は、ゲームのルールについての理解や信念を共有できませんでした。そのため、個人用保護具(PPE)、検査キット、およびソーシャル・ディスタンスのガイドラインをめぐって、州の間でばらつきが生じました。その結果、行き過ぎた多様性、高すぎるコスト、非効率的な資源の割り当てという事態が引き起こされました。
先を見据えた時、私は2つの期待を持っています。1つめはリーダーと組織がこれらの教訓をしっかりと受け止めることです。彼らは前もって考え準備するという、時には面倒な仕事に着手するでしょう。それが「考えられないことが起きた場合に何をするか」を話し合うことなのか、それともシステムの中に資源の余裕をもつことなのかはわかりませんが。彼らはまた、危機的状況下で中央集権化を選択するのか、それとも権限委譲を選択するのか、その選択の意味合いについても考えるでしょう。
2つめの私の期待は、大勢のリーダーが危機の後の世界への希望を表明するようになったことです。今までよりも敬意と思いやりにあふれた、より人間らしい社会と経済が現れることへの希望です。シンボリックな役割をとるリーダーには、そのような発言をする義務があります。私たちが信頼に満ちた未来を描くためには、尊敬できる人たちが必要です。そういう人たちが辛い日々を過ごすのを助けてくれます。
ここで間違いを犯してはなりません。テレワークへと移行する中で得た教訓を生かすつもりのない組織は、危機が去った後、またオフィスに戻って仕事をするようになり、今まで通りの古い行動が復活するでしょう。長期的な成功を望む企業は、「正常に戻る」まで待ってはいません。テレワークへの移行から得た教訓を集め、それがビジネス・モデルをどのように補完できるかを把握し、人々の扱い方や仕事のやり方に統合しようと考え始めています。ゴール設定、仕事の管理、人々の動機づけ、情報の共有などをどうするか、熱心に検討するでしょう。この衝撃と動揺から学ぶべき力強い教訓があります。私たちは今、アジリティ、危機に対する準備、そして権限移譲について考えることを始めなければなりません。
クリストファー・G・ウォーリー博士
南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネス組織効果性センター(CEO)研究員
ペパーダイン大学スクール・オブ・ビジネス・アンド・マネジメント経営学教授
南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネス組織効果性センターの研究員であり、ペパーダイン大学のスクール・オブ・ビジネス・アンド・マネジメントの経営学教授である。戦略的変革、組織開発、組織設計の分野におけるその活躍は広く評価されている。組織効果性センターの研究員となる前には、ペパーダイン大学の組織開発学修士課程プログラムのディレクターを努めた。これまでペパーダイン大学、サンディエゴ大学、南カリフォルニア大学、コロラド州立大学などで教鞭をとっている。
著書は、エドワード・ローラーと共著の『Built to Change(変革するようにつくられた組織)』の他に、学術書として『Integrated Strategic Change: How OD Builds Competitive Advantage(統合された戦略的変革:組織開発による競争優位性の確立)』、また組織開発の教科書として最もよく使われる『組織開発と変革』(トーマス・カミングス共著)などがある。またSloan Management Review、Organizational Dynamics、Journal of Applied Behavioral Science、その他多くの学術誌に数々の研究論文を発表している。また全米経営学会、戦略策定フォーラムなどといった学会や、アメリカとカナダの全国産業審議会でも数多くの講演、執筆活動を行っている。経営学会では組織開発・変革部門の議長を務めた経験もある。
戦略形成と遂行、組織設計、また組織の大規模な変革を専門とするコンサルタントでもあり、顧客にはフォーチュン500社に名の挙がる組織も多く、IT、化学薬品、自然資源、金融、医療などの幅広い業界にまたがる。学界、営利組織、政府団体など様々な場面での15年にわたるマネジメント経験と知識を基にコンサルティングを行っている。
南カリフォルニア大学で博士号(戦略マネジメント)、ペパーダイン大学で修士号(組織開発)、コロラド州立大学で修士号(組織開発)、ウェストミンスター大学で学士号を取得している。戦略マネジメント協会、経営学会、全国訓練研究所(NTL)、組織開発(OD)ネットワークなどの学会、団体のメンバーでもある。
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企業の成長と成功の鍵は、優れた経営戦略にあります。しかし、その戦略を実現するためには、人事戦略との緊密な連携を欠かすことはできません。
経営戦略と連動した人事戦略を策定するためには、自社が置かれている経営環境や社内の状況などを押さえておく必要があります。
本コラムでは、変化が急激な時代において、人事部門が経営層から期待される役割と、経営戦略を達成するために人事戦略を策定するメリットや、押さえておくべきポイントをご紹介します。
ビジネスを取り巻く環境が、これまで以上に急速に、複雑に変化する時代を迎えています。将来を担う「次世代リーダー」(経営幹部候補者)に求められる力も変化しているのではないでしょうか。
これからのリーダーとなる人材が身につけるべき能力として注目しておきたいのが「ラーニングアジリティ」です。激しい変化や経験のない状況に対して、素早く、柔軟に適応し組織を導くリーダーには欠かすことのできない力といえます。
このコラムでは、「ラーニングアジリティ」について解説し、向上するためのポイントをご紹介します。
ビジネスにおけるエンゲージメントとは、従業員と企業の関係性を表す言葉であり、エンゲージメントが高いということは、従業員と企業が結束し互いに高め合える対等な関係、状態のことを指します。
エンゲージメントを高めることは、従業員にとっても企業にとっても双方に大きなメリットがあり、今後永続する企業を目指す上で欠かすことのできない課題となっています。