サービス化:第2回 顧客に寄り添う、共感と共創のビジネスモデルへ

従来とは異なる考え方とIoTの活用によって新たなビジネスモデルの創出を目指す「サービス化(サービタイゼーション Servitization)」。このコラムシリーズではサービス化をテーマに、その基礎的な考え方を整理し、事業のサービス化に向けたアプローチを探ります。この記事は、シリーズの第2回です。

前回の記事では、サービス化の基盤となる考え方と、IoTの関係についてご紹介しました。今回の記事ではいくつかの事例を見ながら、サービス化によるビジネスの変化や、顧客に寄り添ったサービス化を実装するためのステップを考えます。

  • サービス化の成功の鍵は、顧客が価値創造の主役であること
  • サービス化はサステイナブルな価値を提示するビジネスの創造といえる
  • サービス化は「創り出そうとする価値が、顧客に共感される基盤になり得るか」を軸に発想する
目次

    顧客を主役とした価値創造が成功のポイント

    まず、インダストリープラットフォーム戦略による「事業のサービス化」の事例をいくつかご紹介します。これらの成功事例の共通点は、サービスの受け手としての顧客が価値創造の主役であり、サービスを提供する企業はその価値創造を支援・促進する役割に徹していることです。

    IoTを基点としたサービス化の事例

    B to Bビジネスの製造業界では、顧客に対してモノを含むサービスを一定期間提供し、利用期間に応じて利用料を得る「利用体験(契約)型」のサブスクリプションが戦略的に活用され、顧客のリピート購入率の引き上げに成功したケースが多くみられます。

    【事例1】タイヤメーカー:トラック利用者へのアドバイス提供を含めたリース事業

    ドライバー不足が深刻化している物流業界では、タイヤ交換など車両のメンテナンスは運行管理者が行い、ドライバーが運転に専念できるようにするといった、業務の切り分けが進んでいます。

    あるタイヤメーカーでは、トラックのエンジンとタイヤにセンサーを装着して運送会社にリースし、走行距離に基づいて料金を請求するというサービスを開発。使用データが直接メンテナンス工程につながることで、顧客は「常に安定したタイヤ環境」を提供され、管理を提供側に任せることができる。メンテナンスや在庫の心配なども不要となりました。

    【事例2】建設機械メーカー:建設機械にかかるコストを最小化する有償保守サービス

    建設機械の稼働管理システムに蓄積される膨大なデータを収集・分析し、建設機械のライフサイクルコストを最小化する有償保守契約を商品化しました。製品の高品質・高付加価値、稼働の「見える化」による人材不足解消や安全性・生産性の向上を実現させる取り組みです。国内の約6000現場で導入実績があり(2020年現在)、利用件数は今も増加し続けています。

    建設現場の多岐にわたるオペレーション全体に対応し、デジタル化した各プロセスをプラットフォーム上で“横”につないでゆき、顧客の抱える課題を解決している。建設業界での大幅な人手不足に対処し「安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場」が見えてきた。

    【事例3】農機メーカー:農機の稼働状況の可視化など農業経営支援サービス

    先端技術を駆使した「スマート農業」の活性化が図られ、農作業における省力・軽労化が進められています。スマート農業の推進を図るために、トラクターやコンバインなどの農機にセンサーを搭載し、クラウドにデータを集約。データを活用する営農支援サービスを運用し、農機の稼働状況や収量、収穫物のうまみ成分比率等を分析して、農業経営を支援しています。新規就農者の確保や栽培技術力の継承等への利用も期待されています。

    圧倒的に個人事業主が多い農業に、企業や政府からのサポート体制が整備され、補助金や助成金を利用したグループでの導入が徐々に進んでいます。生産者の収益改善や生産性改善、生産環境の持続的改善といった効果が見られるようになりました。急速なテクノロジーの進歩により、技術的な制約のために非効率なまま放置されていた業務にも劇的な変化が見えてきました。

    そしてサービス化は、より細やかなデータの収集・活用が求められるB to C市場へと広がっています。ここでは、2つの事例をご紹介します。

    【事例4】スマートキー(ロック):「鍵の共有」が可能にする多様なサービス

    スマホのアプリなどから施錠・解錠できる「スマートキー(ロック)」が普及しました。顧客は離れた場所からでも鍵の開け閉めができ、施錠状況を確認することができます。

    使用者や使用可能時間を限定した、バーチャルな鍵を共有することも可能です。物理的な鍵の受け渡しが必要ないため、カーシェアや宅配ボックスなどの利便性が向上しました。また限られた人が決まった時間にのみ屋内に入れるように制限することで、家族が不在の場合でも、家事代行やベビーシッター、介護といった訪問を伴うサービスがより安全に利用できるようになりました。

    ソフトウエアのアップデートによってセキュリティーの強化、新機能の付加も可能で、個々の利用状況に合わせたサービスを実装できることから、さまざまな業界に注目されています。

    【事例5】コーヒー:顧客の細かなニーズに合わせたサービス

    IoTによって収集されたデータを活用する「スマートコーヒーサーバー」が登場しました。ハイクオリティーなドリップコーヒーや本格的なエスプレッソが手軽に楽しめる一杯取りのコーヒーシステムなど、ニーズや環境に合わせたサービスを展開しています。コーヒーライフをさらに充実させるための提案がなされることで、コーヒーに関する知識を深め、自分の好みに合った味や楽しみ方を発見できる点が魅力です。コーヒーの需要が高まり、市場に新たな息吹を起こしています。

    時間や天気情報、ユーザーの位置情報などと連携し「外出先からの帰宅中、自宅に近づいたら自動でコーヒーを入れておいてくれる」といった利便性を備えたものもあります。

    サービス化がもたらす変化と進化

    個別のビジネスによって積み重ねられた変化は、より広範囲な社会やビジネスに対する大きな変化へとつながっています。

    例えば、サービス化は「社会に無駄をなくす」というサステイナブルな視点を持ったシェアリングエコノミーとも高い親和性を持っています。シェアリングエコノミーとは、インターネット上のプラットフォームを介して、モノ、空間、スキルなどの遊休資産を個人間で賃貸借や売却、交換するものです。有形・無形の資産をシェアする経済活動は「新しい経済の動き」とも定義されています。

    シェアリングエコノミーにおいて、顧客は「使う・利用する」こと、例えばモノに伴う体験や経験から得られる価値に対して対価を支払います。モノ自体は対価の対象ではないことから、自らが所有することよりも、共有(シェアリング)することの方にメリットがあるのです。

    モノそれ自体ではなく、モノを利用すること・経験が価値を持つという点で、シェアリングエコノミーとサービス化は共通しています。こうした観点からすれば、サービス化とはサステイナブルな価値を提示するビジネスの創造であるとも言えるでしょう。

    顧客に「コト」を与え「イミ」を感じさせる

    では、従来のビジネスモデルはどのような変化を経てサービス化するのでしょうか。図は、製造業のビジネスモデルがサービス化する過程を表したものです。

    「モノの価値」を提供して対価を得る「製品/販売モデル」、モノに付随してサービスを提供する「サービス付帯ビジネス」に対して、サービス化されたビジネスではサービスの一部としてモノを提供します。

    サービス化とは、顧客の課題やニーズを深く理解し、モノ(製品)よりコト(顧客の経験)を注視し、さらには顧客が経験して得る価値に何かしらの「イミ」を持たせることで成立するビジネスモデルなのです。

    「サービス」が価値を持ち続けるためには?

    サービス化されたビジネスモデルに欠かせないのは、顧客の期待に応え、サービスそのものが継続的にアップデートできる仕組みです。

    顧客は、サービスの内容・品質・コストパフォーマンスという3つの要素を軸に、期待値(事前期待)をイメージします。顧客との関係性を維持しビジネスを継続するためには、その事前期待を上回るサービスを提供することが必要です。顧客は日々体験するサービスに対して、イミのある価値が感じられるからこそ満足するのです。

    そして、満足を得て企業とそのサービスへの共感と信頼を持った顧客は、企業とそのサービスに高い愛着を持つロイヤルカスタマーへと成長します。

    自社のビジネスをサービス化するには?

    サービス化はデジタルテクノロジーを駆使したデータビジネスへの進化形であり、収益構造も成長モデルも、従来のビジネスモデルとは大きく異なります。そこで弊社では、サービスの力によるビジネスの変革を「SX(サービス・トランスフォーメーション)」と呼ぶことにしました。「サービスは無限大である」「サービスが変革を起こす」という思いを込めた言葉です。

    変革を受け入れ、「サービスが変革を起こす」「未来は自分たちでつくる」という気概を持ち、事業を再定義しサステイナブルな企業を目指すというのが望ましい姿ではないでしょうか。

    未来におけるサステイナブルな社会と自社の事業を想定しつつ、現時点の目標とロードマップを考える「バックキャスティング」思考で、ビジネスのサービス化に本格的に挑むことが求められます。

    では、自社のビジネスをサービス化するためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。3つのステップをご紹介します。

    ビジネスのサービス化に向けた3つのステップ

    1. 未来のあるべき姿を考察する
      ・デジタルトランスフォーメーション(DX)とサーキュラー・エコノミー(CE)という2つの大きな変革分子を受け入れる
      ・デジタルマーケティングの感覚を養う
      ・革新(イノベーション)要因を見いだし、自社の課題を洗い出す
    2. 自社の新たなビジネスをデザインする
      ・新たなサービス概念に基づくマインドセットを獲得する
      ・価値共創マーケティングを理解する
      ・将来に向けたサービス化戦略のアイデアを案出する
    3. 未来のビジネス生態系の生成を目指す
      ・サーキュラー・エコノミーと融合したプラットフォーム戦略を検討する
      ・本業を問い直し、SXビジネスエコシステムを検討する

    自社ならではの価値を検討する

    重要なことは、サービス化が進む市場において自社がどのような価値を持つことができ、またつくり出すべきなのか、サービス化戦略の根幹となる価値(バリュー・プロポジション)を明確にすることです。

    自社ならではの商品やサービス(他社が提供できないもの)によって、顧客に利得(プラス)をもたらし、顧客の悩み(マイナス)を解消する、そうした価値(バリュー・プロポジション)の創造が望まれます。そして顧客が何に価値を見いだしているのかを理解した上で、自社の提供する価値が、求められているものに沿っているのかを認識することが必要です。

    しかし市場の変化は早く、サービス化への取り組みを自社だけで進めるには、時間とコストがかかり過ぎます。サービス化のノウハウを外から取り込むことで、より迅速に提供できるでしょう。

    最後に

    DXは、機械、技術、人などさまざまなものがつながり、デジタルとリアルが融合しながら「新たな価値創出と社会課題の解決」を目指す社会へと導こうとしています。

    デジタルが生活に溶け込み、自由に、自分の考えを多くの人や企業にいつでも直接メッセージを交換できるようになりました。人間と人間がつながる世界「H to H(ヒューマン トゥ ヒューマン)」がベースとなったコネクテッド(接続性)社会が実現しようとしています。上から下へ、企業から市場へという「タテの構造」が崩壊しはじめ、顧客と企業とは互いの主張や考えをダイレクトに意見交換ができる関係性を築こうとしています。企業とヒトとが「With感覚」で対等に情報交換ができるつながりを持たせたのです。

    また、新型コロナウィルス感染症のパンデミックによって、世界中で「ニューノーマル」が合言葉になりました。

    ニューノーマル社会はスマート化が必然的な要件となってきました。サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した、「ニューノーマルの下で人間中心の超スマート社会」が近い未来、実現するでしょう。スマート社会の実現にはサービス化が不可欠です。サービス化は、企業がマニュアルに沿って提供する画一的で安定したサービスではなく、多様でニッチなニーズにも対応、人や空間の温かさを感じるサービス、場所を選ばず誰もが受容・提供できる、そのようなビジネスモデルの構築を目指したものです。

    世界中が、DXとパンデミックのインパクトによって、必然的に未来を見据えた変革が求められるという状態になっているのです。企業や組織に、これまでの延長線上に無い不確実な変化を強いられたとき、まさに真価が問われるのが変革実現に向けたパワーを有しているかどうかです。

    社会の課題を自分事としてとらえながら、日々の変化を繰り返しつつ、絶えず変化を考える、そして変化することを楽しむマインドセットが必要ではないでしょうか。

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