サステイナブルビジョン策定支援事例:横断的な組織体制でサステイナブル経営の実現へ
カナデビアグループ(旧:日立造船グループ)は、企業を取り巻く事業環境の急激な変化に対応するためには、サステイナビリティ推進が重要になると捉えています。そこで、社内外においてサステイナブルな社会を実現する企業としての存在意義をはっきりと打ち出し、取り組みを推進する体制を作ることとなりました。ここでは、BCon®がサステイナブルビジョンの策定から、ロードマップの検討まで約1年半にわたって支援した取り組み事例をご紹介します。
課題とソリューション
Before
- 2021年10月「サステナビリティ推進室」を立ち上げたが、具体的にどのように取り組むべきか、何から始めるべきか迷っていた。
- 各事業はビジネス領域が異なるため、社内での連携が図りづらい。もっと組織横断的な動きを活性化したかった。
After
- カーボンニュートラル、生物多様性や人権など多岐にわたるサステイナブル経営実現に役立つフレームワークを活用できた。論理的に検討を進めることで2050年までの取り組みが明確になった。
- 各事業部を代表する社員が参加し、ビジョン策定、成功の柱(取り組むべき重要課題、マテリアリティ)と主要施策の検討、2050年までのロードマップを作成した。そのプロセスを経て、横断的な組織体制をつくることができた。会社全体として取り組む「型」ができたため、サステイナブル以外のテーマに関しても、全社で展開がしやすくなった。
背景:事業が多角化する中、グループ全体のサステイナブルビジョンをつくる必要性
カナデビアグループは、1881年に創設された「大阪鉄工所」をルーツとし、今日まで約140年続く企業です。造船から始まり、環境、インフラに取り組んできたカナデビアグループの強みは、環境問題や社会問題の解決に直結する事業を展開しているという点です。
大型船舶には、そこでたくさんの人が長期間暮らすための設備が設けられています。造船技術から、陸ではエネルギーや廃棄物処理など街づくりに応用できる数多くの技術が培われました。また、モノづくりやサービス提供に必要な協力会社やサプライチェーンも構築されています。こうした背景から、社内には「日常的に環境問題を考えている」「何となく意識している」という認識はありました。
それでも今回、トップの強い意志の下、改めてサステイナビリティ推進に取り組むこととなり「サステナビリティ推進室」を設置しました。多角化する事業を展開しながら、一気通貫したサステイナブル経営に取り組むためには、グループ全体で掲げるビジョンを明確にし、サステイナビリティに対する社員の意識と理解を改めて高めていく必要がありました。
課題:事業全体を見通す指針の策定と横断的な組織づくり
サステイナブル経営を進める上でベースとなる考え方を求めていた
社内に「サステナビリティ推進室」を立ち上げ取り組みを始めましたが、事業全体を通してサステイナブル経営に具体的にどう取り組むのか、どこから始めるべきなのかを明確にする必要がありました。そのため、カーボンニュートラル、生物多様性、人権分野など個別の観点に関してではなく、サステイナブル経営全体、ESGを統合した上で何に取り組めばよいのか、そのベースとなる考え方を探していました。また、環境の分野でもカーボンニュートラルだけではなく、環境負荷をゼロにするために何をすべきか広い視点で取り組む必要を感じていました。
事業本部をまたいだ組織横断的な動きを活性化したかった
カナデビアグループの事業は多角化しており、事業本部ごと、あるいはビジネスユニットごとの独立性が高い状態でした。組織横断的な動きを強化するため、組織開発の要素が入った取り組みを求めていました。
取り組み:グループ全体のサステイナブルビジョンやロードマップの策定
BCon®はサステイナブルビジョン策定、成功の柱(取り組むべき重要課題、マテリアリティ)、2050年に向けたロードマップとKPI(重要業績評価指標)の設定、全社員に向けたセミナーをサポートしました。
サステイナブル経営を実現するための持続可能性4原則にのっとり、サステイナブルビジョン、成功の柱、KPIとロードマップを検討
このプロジェクト全体を通じて「持続可能性4原則」や「ABCDプロセス」が検討のベースとなりました。
「持続可能性4原則」は、スウェーデンの医学博士、カール・ヘンリック=ロベール博士の呼びかけのもと、科学や物理などさまざまな分野の研究者が対話を重ねて導き出された、サステイナビリティの定義です。科学者たちは、自然環境および、人間社会を持続可能でない状況にしているメカニズムを解明しました。
持続可能性4原則を基に、サステイナビリティを経営に取り入れるために、4つのステップから構成されるABCDプロセスを活用し検討を進めました。「ABCDプロセス」とは、バックキャスティングでサステイナブル経営実現の道筋を考えることを助けてくれるフレームワークです。
ステップA(Awareness):4つのサステイナビリティ原則、自然のサイクル、ABCDプロセスの方法を理解する。その上で、4つのサステイナビリティ原則に反しないビジョンを策定する。
ステップB(Baseline Analysis):現状を4つのサステイナビリティ原則に照らして分析する。
ステップC(Creative Solutions):サステイナブルビジョン、戦略を実現するためのイノベーティブなアイデアを案出する。
ステップD(Deside on Priorities):プランの優先順位を付ける。①そのプランで最終目標に近づくか。②プランに柔軟性はあるか。③経済的に実行可能か。
会社全体で取り組む横断的な組織体制の確立
グループ全体のビジョンを検討する全社分科会と、事業・機能・子会社ごとに検討を行う14の分科会という横断的な組織体制を確立しました。分科会メンバーは、各事業本部の代表者で構成され、意思決定プロセスに参加しました。本取り組みにおいて、参加者は事業規模の大小に関わらず、フラットに意見を述べ議論をし、自分たちでビジョンを考えるための体制をつくっていきました。コンサルタントは検討ステップを示し、全てのプロジェクト会議に参加し、運営をサポートしました。
インタビュー:多くの学びを得たプロジェクトを経て今後の課題解決にも期待
BCon®との取り組みについて「サステナビリティ推進室」の室長とメンバーにお話を伺いました。
取り組みの成果と評価
持続可能性4原則などのフレームワークに安心感
持続可能性4原則の考え方や検討する上でのフレームワークがあるため、それにのっとってプロジェクトを進めていけば、経営全体としてサステイナビリティを実現するための一気通貫した捉え方ができるようになるという安心感がありました。ただ、取り組んでいる最中は、自分ではそのフレームワークが分からず、今日は何に取り組むのだろうとドキドキしていましたね。今、振り返ってみると理論的に進められていたのだということが分かります。
持続可能性4原則を学んだからこそ、サステイナビリティはカーボンニュートラルだけ、環境だけではないという認識が持てたこと、環境・社会・ガバナンスのESG3本柱で考えなくてはいけないということも学びになりました。
また、TNFD*の提言に賛同するための準備を進めた際にも、サステイナビリティを包括的に検討できていると、社外の専門家の方に認めて頂けました。
*TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)
自然関連財務情報開示タスクフォース。2020年に国連機関と国際NGOによって設立された。
この取り組みの目的は、企業や団体が自身の経済活動による自然環境や生物多様性への影響を評価し情報開示する枠組みを構築すること。TNFDに参加することで、サステイナビリティに配慮した事業活動を行っているというポジティブな社会評価を得られ、企業価値の向上が期待できる。また、投資家やステークホルダーからの投資の指標にもなる。金融機関や投資家の資金が自然再興に貢献することを目指している。
新たにバックキャスティングの考え方を学習
これまで取り組んでこなかったバックキャスティングが一番大変だったかもしれません。頭の体操的なところがあり、これまで使ってこなかった筋肉を使った感じです。多分、皆、これまではフォアキャスティングで経営計画などを決めていたと思うので、今回が初めての取り組みだったのではないでしょうか。
バックキャスティングしようと決めたことで、見えてくる先は遠く2050年へと大きく変わりました。これまでは、数年先、一番遠くても2030年を描いていましたが、それでも描き切れていませんでした。その原因は、目標を立てるときにフォアキャスティングで積み上げていたからだということに気が付きました。後ろが決まってしまうことで、2050年までにやらなくてはいけないことが明確になり、社員一人一人に伝わりやすくなったのではないかと思います。
自分たちで考え、自分の言葉で語った経験があるから、社内の文化として残る
ミッションやビジョンの議論というのはもちろんこれまでも社内でやってきましたが、アプローチに違いを感じました。例えば「ビジョン」という概念そのものについて分かったつもりのまま議論を進めず、その定義を再確認しながら、ぶれずに話し合えるようにリードしてもらいました。また、KPIについても逃げ道ばかりのロードマップになってしまうところを何度も軌道修正しながら検討させていただきました。
議論においては、誰も発言せず黙ってしまう分科会もあって、どう水を向けても発言が出てこないときもありましたが、コンサルタントの方は辛抱強く待ってくれました。逆にこちらは無理やりにでも自分の言葉で何かを語らなくてはいけなくなり、自分の頭で考える苦労を経験しました。苦労して考え抜いたからこそ、自分事になり、組織の中の推進力になるのではと思います。
実効性を高めるための工夫
プロジェクトの運営中、自分たちのプロジェクトなのだという意識を自然と持ってもらえるよう注意を払いました。また、サステイナブル経営の実現は営業利益や財務とも表裏一体であるということを、プロジェクトメンバーに理解してもらうため、中期経営計画の中に取り入れてスケジュールを進め、実効性を高められるよう工夫しました。
短い文章で印象の強いサステイナブルビジョン
何よりもサステイナブルビジョンは「環境負荷をゼロにする」「人々の幸福を最大化する」など短い言葉、1文節で言い表されていて、それが浸透にも一役買っていると思います。短いからこそ、そこにいろいろな意味を込めることができ、その人の身近な問題に引き寄せて、環境負荷をゼロにするということを理解し、自分の言葉に変えることができます。自分の頭で考え、自分の言葉で伝えられることが浸透には最適な方法でした。
プロジェクトを振り返って
このプロジェクトを通して、いろいろな人に支えていただきながら成長させてもらいました。これで終わりではなく、これから先の方が長いのですが、多分やっていけるだろうと思っています。サステイナブルビジョン、成功の柱やロードマップなどを考えるとき、どのような思考回路であったのか、今ある問題を解決するにはどの道を選択すればよいのか、その重要な点を教えてもらった感じです。会社に新たな基礎ができたと思います。それが一番大きいところですね。
サステイナビリティを取り入れた企業というのは、企業価値の向上が期待できると思います。プロジェクトが進行する中で、サステイナビリティの本質をしっかり把握し、理解して進めていくことが大切だと実感しました。
今後の課題とBCon®への期待
ステークホルダーとのコミュニケーションに力を入れ、浸透を深めていきたい
浸透を図るためには、ソフト面ではイベントなどへの取り組み、ハード面では役員報酬制度や業績評価制度にサステイナブルの観点を入れる、さらにはERM(統合型リスク管理)の構築を含め「コーポレート・ガバナンスの高度化」という成功の柱にしっかり向き合うことが必要だと考えています。サプライチェーンの方たちを巻き込むなど、いろいろ織り交ぜたパターンで考えていきたいですね。そのための知見や若手の教育などについて、これからもBCon®さんから教えていただきたいと思います。
今後は社内外のステークホルダーとのコミュニケーションに注力し、webページを通してサステイナブルの取り組みを発信し、方針と戦略を明確にしていきたいと思っています。また、国際的な開示基準に合わせてフォーマットを整え、誰にでも分かりやすくするなど、さまざまな手段を用いて浸透を深めていきたいと思います。これらのことを通して、ステークホルダーエンゲージメントにもしっかり対応したいと考えています。
今回の参加者は中堅以上が中心。次世代を担う若手を育成する必要も
今回の参加者は、中堅以上の社員が多くを占めていました。今後は、若手の育成も求められます。浸透とは少し違う「育てる」部分が必要で、若手にお手伝いをしてもらう形で参画してもらい、一緒に考えていくような仕掛けがつくれないかと考えています。
個別の課題ごとに一緒に取り組んでいきたい
社内のダイバーシティの推進においては、組織横断的な取り組みがスタートしています。このようなとき「ダイバーシティをサステイナビリティの一つの切り口として組織横断的な動きをしたい」といった相談に乗ってもらえたらうれしく思います。他にもいろいろな場面が出てくると思いますので、個別の課題ごとに一緒に取り組んでいけたら楽しいですね。
中期経営計画でESGのSを従来以上に強化することを検討
ESG(Environment:環境、Social:社会・人権、Governance:ガバナンス)の中で、皆が取り組みやすかったのはEです。Socialへの取り組みには非常に苦労し、まだ議論半ばのところもあります。ロードマップを最後まで書きあげてみて、はっきり分かったのはSocialの整理がまだまだ十分とは言えないということですね。
今後、社内では作り上げたロードマップをフォローしていくことになります。このフォローの仕組みづくりと定着、つまりPDCAサイクルを循環させること。そして、現在の中期経営計画が終わり一度振り返るタイミングで、同じバックキャスティングで修正の有無を見直しできるかが次の大きな課題です。
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サステイナブルビジョン策定プロジェクト支援
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